天の川、スカイフィッシュの釣り堀にて

安眠妨害水族館では書かないこと、書けないこと

「ナイキのエアマックス」

僕が中学生の頃、ナイキのエアマックス95が流行った。

靴底に空気の塊が入っていて、衝撃を吸収する当時としては画期的なアイディアのハイテクスニーカーだ。

人気が出すぎて生産が追い付かず、プレミア価格に。

新品だと50~60万円、中古でも10万円はしていたと思う。

そのため、"エアマックス狩り"なんてのもニュースを騒がせており、既に地方の中学生が履くようなシロモノではなくなっていたが、憧れは高まっていくばかり。

スニーカーにはあまり興味がなかった僕も、どんなに凄いものか履いてみたい!という気持ちは大いに駆り立てられた。

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僕の中学には指定靴があったため、そもそもスニーカーを履いてくる者はいない。

だけど、不思議なもので、誰かがエアマックスを手に入れたという噂はすぐに広まる。

「神田くんのお兄ちゃんの友達が持ってるようだ」とか、「横谷くんの従兄弟がナイキとコネクションがあるから貰ったらしい」とか、ほとんどは伝聞の伝聞みたいな話。

今思えばホラも多く含まれていたのだろうが、LINEなどのSNSどころか、カメラ付きの携帯電話すら普及していない時代だ。

事実を確かめようがないので、無条件に受け入れるしかない。

 

そんなある日、ソフトテニス部の同期であった広野くんが「自分はエアマックス95を持っている」と言い出した。

今までの噂には無条件降伏だった僕等も、より身近な人物が「持っている」と言っていれば、「じゃあ確かめよう」という流れになるのは自然なこと。

疑うというより、単純に「エアマックスが見たい」という好奇心で、広野くんがエアマックスを持ってくるように仕向ける計画を立てた。

 

計画はシンプル。

部活で使用可能なテニスシューズのラインナップに、"エアマックス95"を加えるというもの。

噂は既に上級生も知るところで、3年生の提案が採用された形だ。

スポーツ用のスニーカーなのだから、テニスコートで使っても問題ない、という超理論なのだが、そんなにストイックな部活動ではなかったこともあり、3年生が良いと言えばルールは変わる。

ルール改正の裏側を知らない広野くんは、「じゃあ俺、エアマックス履いてきちゃおうかな!」とノリノリ状態。

明日の部活では、遂にエアマックスの実物を拝むことができるぞ、と部員たちはワクワクしていた。

 

そして、翌日の部活の時間が来た。

意気揚々と登場した広野くん。

足元に注目しながら、それを取り囲むソフトテニス部員たち。

「すげぇ!」、「かっけぇ!」という感想に満足そうな広野くんだったが、僕は気付いてしまった。

 

あの有名なナイキのマーク…

こんな形じゃなかったはずだ…と。

 

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そう、広野くんのエアマックスは、偽物だった。

部員たちも、その事実に徐々に気付き始めたようで、重苦しい空気が流れだす。

張り詰めた空気を破るように、部長が口を開いた。

「これ、エアマックスじゃないから規則違反。」

広野くんは、罰としてグラウンドを3周走らされた後、「体調が悪くなった」と言い残して帰宅した。

それが、ソフトテニス部員としての広野くんを見た最後だった。

 

後日、広野くんは卓球部として活躍していると聞いた。

そこでのあだ名は「矢印」だった。