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天の川、スカイフィッシュの釣り堀にて

安眠妨害水族館では書かないこと、書けないこと

「靴の中」

靴の中にカビが生えた。

会社に履いていく革靴だ。

 

会社から帰って、靴を玄関先に揃えていると、何やら右足の中敷きだけが白っぽい。

左右の中敷きをアシンメトリーにするほど、見えない部分のお洒落に気を遣うタイプではない僕。

これはどうやらカビっぽいぞ、という結論に辿り着くのに、そうそう時間はかからなかった。

 

調べてみると、カビが生えること自体は、ないことでもないらしい。

構造上湿気が溜まりやすい革靴は、汗や雨などで湿気が多い状態のまま靴箱に放置しておくと、高確率で生えてくるのだとか。

頻繁に履くため靴箱などには入れておらず、玄関に放置していた僕の靴にカビが生えたのは釈然としないのだけれど、カビにとって僕は空気のような存在で、頻繁に履いていたとしても放置されているのと変わらなかったのだ、と捉えて納得することにする。

 

それより、問題はタイミング。

他に履いていた革靴が、最近寿命を迎えて廃棄したばかり。

今のところ、この靴しか会社に履いていけそうな靴がない。

今日が金曜日だったのならまだ救われるものの、この出来事は火曜日の夜に発覚。

当然、靴屋は閉まっている時間だ。

スニーカーで会社に行くわけにはいかないし、履いていく靴がなくて会社を休む、なんて前代未聞すぎる。

取り得る選択肢は、「カビの生えた靴にもう一度足を突っ込んで出勤する」なのだが、さっきまで履いていたとはいえ、気付いたからには嫌だ。

こんなことなら、靴の中なんて覗かなければ良かった!

 

絶望に打ちひしがれているところ、娘の寝かしつけを終えて嫁が出てきた。

効果的なカビの洗い方でも知らないか、と藁をも縋る想いで一部始終を伝える僕。

すると嫁。

「靴の中敷き、集めるのが好きだからいっぱい持ってるよ。たぶん、そのサイズもあるよ。」

 

幸い、中敷きを取り換えれば影響はほとんどなく、翌日は問題なく出勤できた。

やはり、頼りになるのは家族。

ひとりの力では、きっと解決できなかったことだろう。

ただし、代わりにできた疑問、「靴の中敷きを集める趣味って何?」は、救われた手前、切り出しきれずに今に至る。

どういう中敷きがお洒落な中敷きなんだろう?

中敷きマニアの集い、なんてのもあるのだろうか?

靴の中には、まだまだ僕の知らない世界が広がっているようだ。